ウェグナーの反動効果は,さまざまな場面で働く。不幸なできごとを忘れなさいと言われると,かえってそのできごとを忘れられなくなる。ストレスになることは考えないようにと言われると,かえってそのできごとを忘れられなくなる。そして不眠症の人に眠れなくなるようなことは考えないようにと言うと,かえって眠れなくなる。
ウェグナーは,テーブル・ターニングやウィジャ・ボードで,指を動かすまいとしてもテーブルやブランシェットが自然に動き,霊からのメッセージを受け取れるのも,同じ現象で説明できるのではないかと考えた。反動効果は,運動面にも働くのではないか。ある行動をしないように頑張ると,かえってその行動をしてしまうのではなかろうか。
ウェグナーは観念運動のもう1つの代表例を使って,実験をおこなった——振り子である。何世紀も前から,人びとは糸に結んだ小さな重りを左右に振ったり,円を描くように回したりして,生まれてくる赤ん坊の性別を知り,未来を占い,霊と交信してきた。ウェグナーは被験者を1人ずつ研究室に招き,レンズを天井に向けて設置したビデオカメラの上で,振り子の糸をもってもらった。被験者の半数には振り子を動かしてはいけない方向を1つ指示し,もう半数には振り子をできるだけ動かさないように頼んだ。
撮影されたフィルムを見ながら,ウェグナーは振り子の動きを精密に計測した。すると,白くまのことを考えないように言われると白くまのことばかり考えてしまうのと同様,振り子を動かすまいとすると,かえって振れ方が激しくなっていった。この無意識の運動は,被験者に6桁の数字を記憶する,1000から3ずつ引き算する,などであらかじめ頭を働かせてもらうと,いっそう激しくなった。
リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2012). 超常現象の科学:なぜ人は幽霊が見えるのか 文藝春秋 pp.157-158
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