だがとっさの行動では,この行程が誤認識される。ここで,ある行動を試してみよう。あなたはこの文章を読み続けてもいいし,お茶を飲んでもいい。どちらを選んだ場合も,あなたには脳の動きが感じられないはずだ。突然前頭部で血流の勢いが増すのを感じたり,続いて左脳が活発に動き出すのを感じたりはしないだろう。そこであなたは,左右の耳のあいだに詰まった肉のあいだを走る電気的な力がではなく,“自分が”決断を下したという感覚をもつ。
この謎について,ウェグナーは理にかなった賢明な答えをだした。“自分”が決断を下したという感覚は,じつは脳が作りだす幻想だと考えたのだ。ウェグナーによると,日々の暮らしの中で,立ち上がる,言葉を話す,腕を振り回すなど,脳はあらゆる行動について決断を下す。だが,決断を下した直後に脳は2つのことをする。1つは,決断を意識化する部位に信号を送ること,もう1つは,足や口や腕に送る信号を遅らせることである。その結果,“あなた”は,「自分がたったいまこの決断を下した」という信号を意識し,自分がその信号と矛盾しない行動をとったことを確認し,すべてを動かしているのは“自分だ”と誤って思い込む。
言ってみれば,あなたは運転席にいる幽霊なのだ
リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2012). 超常現象の科学:なぜ人は幽霊が見えるのか 文藝春秋 pp.162
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