ウェグナーは,人によって「脳が決断を下し,その決断にもとづいて意識的な行動が作りだされる」というメカニズムがうまく機能しない場合があると考えた。脳が行動について決断を下し,しかるべき筋肉にメッセージを送るのだが,決断を下したのは「自分」だという意識を作りあげるのに必要な信号が,うまく送られないのだ。その結果自動筆記では,筆記がおこなわれても筆記者は書いているのが自分だと思えない。ウェグナーは,この現象が自由意志の根本的な性質について,貴重でユニークな手がかりをあたえると考えている。この発作が起きているあいだにふと我に返った筆記者は,自分が自分のロボットになったような感覚をもつ。児童筆記は怪しげな見せ物ではなく,私たちの日常行動の奥にひそむ真実をあらわすものなのだ。
リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2012). 超常現象の科学:なぜ人は幽霊が見えるのか 文藝春秋 pp.166
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