そのあと,ヴァイキングたちが行儀よく手を洗ったとして,祝いの席にはどんな料理が並ぶのだろう?種類はたかがしれていた。新鮮な魚か,スモークした魚,岩のように硬い塩漬けのタラ,あるいはちょっとした珍味として,これを食べなければいけないのなら,どんな仕事も最悪になってしまうもの——発酵させたサメがあった。
今日でもアイスランドとグリーンランドでは珍味として食されているが,ロンドンのレストランに登場したら衝撃を与えることは必須だろう。たぶんかつて,どこかの誰かが釣ったばかりのニシオンデンザメ(グリーンランドシャーク)の肉を生のまま,発酵させずに食べてみたに違いないが,その経験が書き残されていないのは,シアン化物が含まれていたからだ。無害化するには,内臓を抜いて軟骨と頭を切り落としたサメ肉を,夏期なら6週間,冬季なら3ヵ月,地面に埋めておく。その間にバクテリアがシアン化物を分解し,サメ肉から水分が抜ける。歴史学者の中には,遠い昔にはバクテリアの働きを促進するため,埋める前の肉に小便をかけたという説を唱える人もいる。ようやく掘り返されたとき,発酵の進んだサメはやわらかく,アンモニア臭を放っている。それを洗って,乾燥小屋に干すこと2ヵ月。全体をおおっている茶色の外皮を取り除いて,肉を小さく切り分けたら,ようやく口に放りこめる。そのときサメは,やわらかなチーズのような粘度を持った食物になっているのだ。
トニー・ロビンソン&デイヴィッド・ウィルコック 日暮雅道&林啓恵(訳) (2007). 図説「最悪」の仕事の歴史 原書房 pp.54-55
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