そう,御便器番は実際に王の肛門を拭いていた。チューダー期の人々は,国王は天来の存在,神が定め,指名した存在だと信じていた。王のためなら,何でもしなければならない。そして現代人ならトイレでひとりになりたいものだが,王は人目にさらされるバスルーム生活を送っていたのである。
御便器番は,宮廷の中で特権的な地位だった。王の臀部に触れられるのは,最高位の貴族だけと考えられていた。御便器番には最も私的な瞬間に,王と2人きりになるという役得があった。王の私室の鍵を持っており,王が着替えるのを手伝った。給料も破格だったし,出世の足がかりにもなった。
しかし王のそばに仕えるというのは,危険でもあった。アン・ブーリンを始末する方法を探していたとき,周囲を見回したヘンリー8世は,自分の御便器番に目をつけた。サー・ヘンリー・ノリスは,彼女とふりん行為を働いたと言われて,1536年に処刑されたのだ。
トニー・ロビンソン&デイヴィッド・ウィルコック 日暮雅道&林啓恵(訳) (2007). 図説「最悪」の仕事の歴史 原書房 pp.128
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