コルセットはつけて楽しいものではない。腹にくいこみ,横隔膜を締めつける。だが,最大の苦痛は何百本も使われるピンによってもたらされた。下着は縫ってあったが,だいたいのドレスはピンで留めるだけだったのだ。これだと,今のように人によって衣装を変えなくていいし,同じ服地を使い続けられる。チューダー王朝といえば襞襟(ラフ)だが,この襟までが,糊の利いた1枚の細長い布に熱いアイロンをかけてつくり,最大200本にのぼるピンで襟もとに留めただけだった。トムキスという劇作家は,ピンを使って少年役者にドレスを着せるには5時間かかるとしたうえで,「貴婦人の身支度より,船の艤装のほうがよほど時間がかからない」と感想を記した。あなたには,少年がそんなに長いあいだ,たくさんのピンに刺されまいとじっとしているところが想像できるだろうか?巨大なハリネズミの皮を裏表にまとっているようなものだったろう(これは当時の女性全員が,日々の経験として知っていることだった。肖像画の中のエリザベス女王がどれもこわばっているわけだ!)。
トニー・ロビンソン&デイヴィッド・ウィルコック 日暮雅道&林啓恵(訳) (2007). 図説「最悪」の仕事の歴史 原書房 pp.143
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