火薬は3種類の化学物質を混ぜあわせたもので,単純ながら破壊力がある。比率は炭素10パーセント,硫黄15パーセント,それに硝酸カリウムつまり硝石が75パーセント。硝石中の硝酸塩が酸素を生成し,それが燃焼して膨張,炭素と反応して爆発力を生む。マスケット銃の弾丸を1発発射するには25グラム,大砲の球形砲弾を打ち上げるには400グラムの火薬を要する。その結果,戦時には膨大な量の硝石が必要になった。それをすべて調達したのが,硝石集め人(ソルトビターマン)たちだ。
硝石集めとは,牛乳配達人と執行吏と農場労働者,糞清掃人(ゴング・スカワラー)を合わせたような,奇妙なとりあわせの仕事だった。だが,することは単純だ。スチュアート朝時代,硝酸塩の主な出どころは,われわれにとって古いつきあいの尿や便であった。それが土中に長く残るうちに,カルシウムと硝酸ナトリウムに分解する。硝石集め人はまず,尿のしみ込んだ汚い土壌を見つけなくてはならず,さらには,えりすぐった土くれを旧来の重労働によって掘り上げなくてはならない。目をつける場所といえば,掘り込み便所,豚舎,堆肥の山,ハト小屋——いかにも窒素肥料が土壌にしみ込んでいそうなところならどこでもいい。糞掃除人は,たんにいらない廃土を取り除くだけだが,硝石集め人はその土を有用品に変えるのだ。
トニー・ロビンソン&デイヴィッド・ウィルコック 日暮雅道&林啓恵(訳) (2007). 図説「最悪」の仕事の歴史 原書房 pp.159-160
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