皮なめしという仕事は“最悪の仕事”のコンセプトからすると,典型的なものである。驚くほどハードなものであるとともに,デリケートな現代人からすれば胸の悪くなるような仕事でもあろう。しかも,皮なめし人たちは自らのコミュニティからのけ者にされていた。それでも,技術の必要な仕事であったことは確かだ。ヴィクトリア時代,この仕事には何千という人たちが就いていた。もっと重要なことに,この仕事がなかったら——そして彼らの作った革がなかったら——馬に引かせる犁もなければ,騎馬隊も騎士もいず,彩色された写本も財務府の記録も存在しなかったことだろう。この社会と歴史の動きがストップしていたはずなのだ。
だがそのことは,本書で紹介した仕事のほとんどについても言えるだろう。武具甲冑従者や火薬小僧(パウダー・モンキー)がいなければアジャンクールの戦いもトラファルガーの海戦もなかったろうし,糞清掃人がいなければハンプトン・コート宮殿もなかったろう,と。私たちの歴史が作られてきたのは,それぞれの時代の“最悪の仕事”に従事した,無名の人たちのおかげなのである。彼らこそ,この世界を作ってきた人なのだから。
トニー・ロビンソン&デイヴィッド・ウィルコック 日暮雅道&林啓恵(訳) (2007). 図説「最悪」の仕事の歴史 原書房 pp.320-321
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