次の段階として,スピアマンは想像力と方法を並外れて飛躍させた。彼は,複数の教科の成績が,一般的な学力の高さを測る複数の結果と見なせるかもしれないと考えた。同様に,複数の種類の感覚における弁別の正確さは,一般的な弁別能力を測る複数の結果と見なせるかもしれない。問題をこのように考えることによって,スピアマンは測定の非信頼性に対して相関を補正する自らの新しい方法を生かすことができた。個々の点数を信頼できない結果とみなせば,それらを用いて,根底にある真の,一般的な学力あるいは一般的な感覚能力を把握できるだろう。このようにして,スピアマンは測定された相関を補正し,根底にある一般的な能力間の相関を推定した。その後の100年間に,このような種類の統計的手法ははるかに洗練されたものになった。たとえば,「因子分析」は,現在,科学と工学全般で相関データのパターンを解析するために用いられているが,スピアマンの研究の直接の子孫と言えるものだ。しかし,方法は単純だったにもかかわらず,スピアマンの解析は,驚くべき結果をもたらした。彼の方法で推定すると,学力と感覚能力は約1の相関を示した。言い換えると,ある種の数学を用いて個々のテスト間の見かけの相関に潜んでいるものを調べ,2つのまったく異なる分野(学校と感覚実験)の一般的な能力を推定すると,2つの能力が同一のものであるように見えた。学校で全般的に成績がよかった人は,感覚弁別でも全般的に成績がよかったのだ。
こういった発見を説明するためにスピアマンが提案した理論は,もう1つの想像力に富んだ飛躍だった。学力あるいは感覚弁別だけでなく,いかなる心的能力あるいは心的成績(決定の速さや記憶する能力,音楽的あるいは芸術的能力)も測定するとしよう。こういった能力の1つ1つに対して,スピアマンは2種類の寄与があると主張した。1つ目は,それぞれの人の性質の中の一般因子(general factor)(取り組むどんなことにでもその人が用いるもの)からの寄与だ。最初,スピアマンはこれを「一般知能」と呼び,この用語は生き残っているが,彼自身は,私がこの章の初めに示した理由でのちにそれを放棄した。その代わりに,彼は単純に一般因子,あるいはg(= general)と呼ぶ方を好んだ。2番目として,1つ以上の特殊因子(specific factor)からの寄与が挙げられた。こちらは,個人の技能や才能,その他の因子であり,記憶や芸術のような,測定される特定の能力に特有のもので,他の活動にほとんど,あるいはまったく影響しない。gのレベル(一般因子がどれくらい効果的に働くか)は人によってまちまちだろう。ありうるすべての特殊因子もまちまちだろう。スピアマンはそれらをs(= specific)と呼んだ。
ジョン・ダンカン 田淵健太(訳) (2011). 知性誕生:石器から宇宙船までを生み出した驚異のシステムの起源 早川書房 pp.52-54
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