この章の初めで,「知能」の日常概念が明確な意味をもっていないことを述べた。それは,どうにでも取ることができ,比喩的であることもある。どんなものであれ,特定の1つのものを指しているとは考えにくい。
これとは対照的に,スピアマンのgの概念は明確なものだ。それは,特定の事実(正の集合の存在)を説明するために提案された理論的構築物だ。その理論では,gを測定する正確な方法が詳述されていて,その手続きに従えば,結果は,性質の分かった安定した測定値になる。では,それが「知能」なのか?これは間違った問いでしかない。ある意味で,gは知能以上だ。つまり,より明確で,より客観的で,よりしっかりと定義されている。一方,ある意味では,知能以下でもある。gのような概念で「知能が高い(インテリジェント)」と呼ばれる多くの異なるものをすべて説明するのがほとんど不可能だからだ。私たちは科学に期待して,新しい考えを生み出した。それは以前に持っていた考えと関係がないばかりか,同じものですらない。
ジョン・ダンカン 田淵健太(訳) (2011). 知性誕生:石器から宇宙船までを生み出した驚異のシステムの起源 早川書房 pp.60
PR