この問いを異なる方法で調べてみよう。2つのことを例に取ろう。過去100年間にわたって,文字通り何千という実験によって,人が仕事でどれくらい好成績を残すかを予測する方法が調べられてきた。合計何百万もの人が,最も単純で最も熟練を要さないものから最も複雑なものまで,考えうるあらゆる仕事でテストを受けてきた。基本的な狙いは,有能な従業員を雇える可能性を最大にするテスト,または方法を考案することだ。考えうるあらゆる種類の方法が調べられてきた。面接,推薦状,仕事の成績によるテスト,人格測定,基本能力テスト,筆跡学(手書きの字から個人の性格を読み解こうとするもの)などだ。大量かつ幅広い内容のデータは,それらの結果を結びつけ,評価するための統計学の新しい分野の発展を促してきた。現代社会において,これほど徹底的に調べられたものはない。その結果は,明白かつ,実に驚くべき内容となっている。
なかには,それなりにうまくいく方法もあった。最良の方法は,仕事の能力を直接測ることだった。たとえば,優秀な煉瓦工を選ぶために最もよいのは,煉瓦をどれくらい上手に積めるかを評価することだ。そういった評価は後の生産性と0.5以上の相関があるだろう。役に立たない方法もあった。たとえば筆跡学だ。もっとも,イスラエルなどの国では,筆跡学は誰を雇うかを決めるためによく用いられる根拠となっている。
実際に仕事の成績を測る方法の次にくるのが,一般認知能力のテストで,これは本質的にはgのテストと言える。このテストは,まったく熟練を要さない仕事に対して,後の生産性と0.2か0.3程度の相関しかない。平均的な複雑さの仕事に対しては相関が0.5で,最も複雑な仕事に対しては0.6に近づく。心理学者はgの力に慣れてしまっているので,このことに驚かないかもしれない。しかし,よく考えてみると,どのようにしてこんなことが可能なのか?煉瓦工を選ぶために,煉瓦を積めるかどうか尋ねてもいいし,あるいは,一見でたらめに集めたような人工のテストを1時間かけてやってもらい,その結果を平均するだけでもいいのか?そして,この2つの方法は同じぐらいうまくいくのか?確かに,これらのことは,人間の心に関して実に驚くべきことを語っている。
示唆に富む観察がもう1つある。考えうる多くの仕事を集めてリストを作り,それらの仕事がどのくらい望ましいか順位を付けるように一般の協力者に頼む。そして,その人たちがどれくらいその仕事に就きたいかに関して,1位から最下位まで仕事の順位表を作成する。次に,実際にそれぞれの仕事に就いている人たちの平均IQの順位で,もう1つの順位表を作成する。何が分かるかというと,この2つの順位はほぼ完全に一致するということだ。さらに言えば,2つの相関は0.9を超える。ある特定の仕事が,一般の協力者が就きたいものであればあるほど,その仕事は実際にgの点数が高い人が就いている。これが何であろうと,人々の生活に甚大な影響を及ぼすのは間違いない。
ジョン・ダンカン 田淵健太(訳) (2011). 知性誕生:石器から宇宙船までを生み出した驚異のシステムの起源 早川書房 pp.61-63
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