スピアマンの理論の数学を用いてできることがもう1つある。再び,たとえば10個の課題のバッテリーを多くの人々にやってもらったと想像してほしい。結果として得られるのは,個々の課題とそれ以外の課題の相関のリストだ。10個の課題を用いるなら,45個の相関が得られるだろう。これまで見てきたように,実際のデータにおいて,それらはすべて正になる。ただし,あるものは他のものよりずっと大きくなるだろう。大雑把な経験則として,実際に目にする最高値は0.6程度で,最低値は0.1程度だろう(ここでは,課題をできるだけ異なるものになるようにしたと仮定している。非常によく似た課題では高い相関を示すだろう。スピアマンの理論で説明されるように,gだけでなくsも共有しているからだ。たとえば,2つの課題が両方ともラテン語の語彙力を測定していれば,それらの相関は他のものよりずっと強いものとなるだろう)。これらの相関のパターンから,個々の課題のg飽和度(g saturation)と呼ばれるものを計算できる。これは,その課題の成績がどれくらい強くg自体と相関しているかを示すものである。言い換えると,その課題がどれくらいよく,sではなくgを測っているかを示す。
ここでも,正確な方法を知ることは重要ではない。その直観的理解は大切だ。大部分sで,gがほとんどない課題がある。こういった課題にとって最も重要なものは特殊能力であり,加えてgからの寄与がほんの少しだけある。成績は主にsで決まるので(このsは,その他の活動のすべてのs因子と異なっている),こういった課題は一般的に他のものとは低い相関を示す。逆に,大部分がgで,sからの寄与がほとんどない課題もある。こういった課題の成績は大部分がgで決まるので,他との相関は高くなる傾向がある。おおまかに言えば,バッテリー内の個々の課題のg飽和度は,他との相関の平均から導き出される。
ジョン・ダンカン 田淵健太(訳) (2011). 知性誕生:石器から宇宙船までを生み出した驚異のシステムの起源 早川書房 pp.63-64
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