さらに,前頭葉損傷の患者に関する膨大な量の研究文献から,あらゆる種類の認知テストにおける欠損が明らかになっている。それらのテストには,知覚や,迷路学習,単語の一覧表の記憶,単純な光や形にできるだけ速く反応すること,ジェスチャーをまねること,休暇の計画の立て方とかレストランでの食事の注文の仕方などの現実世界の知識,Fで始まる単語をできるだけ多く挙げることに関するものなどがあり,ほかにもたくさんある。神経心理学では,前頭葉の機能を「評価」する目的で有名になったテストがあるが,それらがどんなテストであるかはほとんど偶然に過ぎないと思う。前に述べたように,ほとんどの前頭葉損傷の患者は,ルリアが述べているような行動の極端な崩壊を示さない。とはいえ,前頭葉損傷の患者のそれなりに大きな集団を,損傷を受けていない対照被験者の同様の集団と比較すると,ほとんどの課題で患者の方に欠損が明らかになるだろう。ルリアの考えが示唆しているように,前頭葉損傷の患者は有効な行動において全般的に欠損を示す。gが低下していれば,そうなるはずだ。
ジョン・ダンカン 田淵健太(訳) (2011). 知性誕生:石器から宇宙船までを生み出した驚異のシステムの起源 早川書房 pp.135-136
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