ミルグラムは権威に対して反抗しやすくするのはどの要因かについても研究している。ミルグラムは,権威には支配的な力があるという思いもよらなかった事実を知らせてくれただけでなく,権威が私たちに及ぼす望ましくない影響に対する強力な解毒剤も提供してくれたのである。彼は,二人の仲間が反乱すれば,権威の力の支配から被験者を解放できるということを実験によって示している。この条件では,本当の被験者1人と2人のサクラからなる3人の教師のチームを作った。実験の途中で,サクラたちは実験者に反抗し,1人は150ボルト,もう1人は210ボルトのところで実験を続けるのを拒否する。この実験では,本物の被験者のうちの90パーセントが反乱に従い,途中で実験を中断した。言い換えれば,被験者の10パーセントしか完全には服従しなかったということになる。ミルグラムが行ったほかのどんな実験のバリエーションよりも,権威の力を最も下げるのに効果的だったのがこの条件だった。彼はここから次のような重要な結果を導き出している。つまり,「個人が権威に対抗しようと考えるならば,最もよいのは,その集団のなかから自分のことを支持してくれる人を見つけるということである。お互い同士が手を取り合うということこそが,権威の行き過ぎに対して私たちが持ちうる最強の砦なのである」。
トーマス・ブラス 野島久雄・藍澤美紀(訳) (2008). 服従実験とは何だったのか---スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産 誠信書房 pp.141-142.
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