「人間は通常脳の10パーセントだけを使っている」という,よく知られた神話がある。どのようにしてこの神話が生まれたのかは分からないが,現代の脳機能イメージングは,むしろ反対のことを教えている。本当に驚くべきことに,目標の刺激が現れたときボタンを押すというような最も単純な課題でさえ,脳の多くを使っているのだ。しかし,それが当てはまるのは,認知上の囲い地の中核部分だけだ。どの瞬間も,私たちは脳内の利用できる全知識のほんのわずかな部分しか使っていない。18時間のあいだ,工学部の学生は,どのドミノも隣り合った2つの正方形を覆うはずであることがわかっていた。それらの正方形が交互に黒と白になっていれば,個々のドミノが黒と白を覆うことをきっと説明できただろう。この知識は原則的にはいつでも利用できた……すべての利用可能な知識やすべての可能な解決への経路を調べられるシステムであれば,即座にその知識を見つけていただろう。しかし,私たちのシステムはそのように作られていない。その代わり,私たちが持っている知識のほぼすべては,現在の経路,つまり現在の一連の認知上の囲い地に入るまで,休眠状態にある。問題解決の秘訣は,適切な知識を見つけること,つまり,問題をまさに適切な副問題に分割し,解決への適切な経路を進むことだ。
ジョン・ダンカン 田淵健太(訳) (2011). 知性誕生:石器から宇宙船までを生み出した驚異のシステムの起源 早川書房 pp.201
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