前に述べたように,合理化の特徴は考え同士のゆるい結びつきだ。事実Aは事実Bをさほど含意していない。2つは相性がよいため,1つを信じれば,もう一方も信じようという気になる。このゆるい結びつきの原理を用いると,一方の側に偏った政治的論拠を構築するのに絶大な効果がある。ばかげたことに,妊娠中絶についての討論相手の見方が突然,経済統制の議論に持ち込まれる。この2つの一連の問題が完全に独立していることはその際問題ではない。私たちの心の中では,個人についての異なる見方が結びつく。つまり,私たちは,Xについてその人を疑っていれば,Yについてもその人を疑う傾向がある。私たちは,多くの別々の一連の考えを(政治的に)「右」か「左」という包括的な表題の下にくくられるようにみえる。実は,そのことをずっと不思議に思ってきた。妊娠中絶と医療,アラスカにおける石油の掘削,課税,神の存在はすべて,単独で,重大で,細かく,複雑な問題だ。これらのどれ1つを取ってもそれについて見解を形成するのは,複雑で詳細な作業のはずであり,異なる問題に対して,その複雑さと細部はまったく別々のものだ。
ジョン・ダンカン 田淵健太(訳) (2011). 知性誕生:石器から宇宙船までを生み出した驚異のシステムの起源 早川書房 pp.281-282
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