私の考察では,gの核心には,多重要求システムと心的プログラムの組み立てに果たすその役割がある。どんな課題においても,その内容が何であれ,課題遂行の異なる段階に対応する認知上の囲い地の連鎖がある。どんな課題に対しても,この連鎖は良くも悪くも作ることができる。良いプログラムでは,重要な段階が明瞭に限定され,分かれていて,誤った手段が避けられる。プログラムが悪いと,連続する段階がぼやけ,混同あるいは混合するようになる。前頭葉の患者の乱れた行動を見れば,あらゆる課題に,そして私たちがするあらゆることに,このリスクが存在することが分かる。思考と行動を順調に進行させるために,脳は常に警戒する必要があることが分かる。行動をこのように組織化するシステムは,きっとあらゆる種類の課題に寄与し,その効率が人によって変わるなら,普遍的な正の相関を生み出すだろう。
レイヴンの行列のようなテストにおける多重要求活動——多くの種類の課題に対する多重要求システムの活動——の重要性,認知上の囲い地の創出におけるこのシステムの役割,あらゆる課題における正確な心的プログラミングの重要性。こういったことはすべてこれまでのgについての説明を強く支持している。しかし,これが唯一の説明なのだろうか?ほかの要因も普遍的な正の相関に寄与しているのではないか?
答は分からないが,疑う理由があることは確かだ。gが遺伝子と環境のどちらに主に由来しているのかを問う論争が長い間続いていて,そういった論争のほとんどのものと同じように,答はきっと,どちらからもいくらかずつというものだ。環境に関しては,たとえば,電話番号を後ろから思い出すような短期記憶課題の集中的訓練のあとでレイヴンの行列の成績が向上するというような興味深い結果がある。一方で,gに影響する遺伝子の探索も進められていて,この研究は始まったばかりだが,答が出始めている。最も可能性が高いのは,gに大きな影響を与える1個あるいは数個の遺伝子はないというものだ。その代わりに,多くの遺伝子があって,そのそれぞれが小さな影響を与えているというものだ。さらに言えば,遺伝子が多重要求システムのような特定の脳システムだけに影響することはありそうにない。その代わりに,遺伝子は神経系全体に,そしてその外部にさえ,かなり一般的な影響を与えるようだ。
上記のことは,普遍的な正の相関のもう1つの理由を示唆している。今度は,あらゆる課題で,同じ認知機能あるいは同じ脳機能に活動が要求されると考えられていない。その代わりに,脳全体で,すべての機能が,神経の発達に同じような幅広い影響を与える同じ遺伝子によって影響されることになりやすいと考えている。
この2つの説明はいくつかの形で結びつくかもしれない。1つの可能性は,正の相関が本質的に異なる2つの理由から生じるというものだ。つまり,一部は,すべての異なる課題において共通の多重要求システムが関与するという理由から生じ,一部は,遺伝的(あるいはその他の)影響が脳の多くの異なる部位に共通に影響するという理由から生じるということだ。あるいは,2つの説明を関連づけることもできる。たとえば,多くの脳機能の中で,遺伝的変異に最も影響されるのが多重要求システムの機能であり,そのためレイヴンの行列のような,そういった機能のテストが,gの最も良い尺度になるということがありうる。いくつもの要因が正の相関をもたらすが,実際には,そのうちのいくつかがほかのものよりずっと重要であるということもありうる。
ジョン・ダンカン 田淵健太(訳) (2011). 知性誕生:石器から宇宙船までを生み出した驚異のシステムの起源 早川書房 pp.306-308
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