日本は,世界でもっとも進歩した,驚くようなトイレを製造している。血圧を測定し,音楽を流し,便器の中に装備されたノズルから出るお湯と暖かい空気によって,肛門と「フロント部分」を洗浄および乾燥し,臭いの元を吸収し,夜中によろめきながらトイレに入ろうとする人のために電気をつけ,使用者に代わって便座を上げ下げしてくれ(これは,「結婚生活を破綻から救う機能」として知られている),タンクなどという古めかしいものなどなくても,排泄物を流してくれる。これらは,高機能トイレに付随する機能だが,最低でも,内臓ビデと暖房便座,そしてしゃれたコントロールパネルは装備されている。
その結果,ここ数年,はじめて日本を訪れた旅行者は,帰国後,みな同じようなみやげ話を披露することになった。使用済みの下着を売る自動販売機と,得体のしれない「スシ」なるものにとまどいを感じる合間に,次のような出来事に遭遇するためだ。トイレに入ると,便器のわきにハイテクのコントロールパネルがあるのに気づく。パネルにはたくさんのボタンがあって,それぞれに何かのシンボルが描かれている。そして,便器の奥には奇妙なノズルが見える。日本語はわからないし,ボタンの上のシンボルの意味も,たまに添えられている英語に翻訳された説明書きも理解できない。このボタンを押すと,水が流れるのかしら?それともタンポン引き抜き器が出てくるの?いったい全体この「フロント・クレンジング」ってなに?用を足した外国人は,ごくふつうの水洗レバーをむなしく探す。そしてまた——今度もむなしく——コントロールパネルのどのボタンを押せば水が流れるのだろうと考える。とりあえず,1つ押してみる。するとノズルから水が飛び出し,下半身がずぶ濡れに。
ローズ・ジョージ 大沢章子(訳) (2009). トイレの話をしよう:世界65億人が抱える大問題 日本放送出版協会 pp.33-34
PR