答えを得るために,ミルグラムは「スモールワールド法」という実験を考えた。それは次のようなものである。遠くの街に住んでいる人の名前(目標人物)の名前を一群の男女(発信人)に与える。発信者がやらなくてはならない課題は,ある書類フォルダーをターゲットの人物に送り届けることであった。ただし,そのために使えるのは,自分(発信人)よりいくらかでも目標人物を知っている可能性がある友達や知人とのつながりだけなのであった。すなわち,その書類フォルダーを送ることができるのは,送り手がファーストネームで呼び合う関係の受け手だけだった。そのフォルダーがどこまでいったかを追跡するために,そのフォルダーには,名前のリストがあり,そこに被験者が自分の名前を書き込むとともに,進行状況を報告するためにミルグラムに宛てて送る葉書が入っていた。
ターゲットの人まで到達したリンクは一部だけだった。たとえば,ネブラスカに住む人から,ボストンの株式仲買人を目標人物として行った実験では,発信人から出たつながりのうち26パーセントだけが完成したに過ぎない。しかし,このうまくいったつながりからわかったことは,世間は狭いという考えを支持するものだった。平均してみると,最初の発信人から目標人物まで,約6人を間に挟めばよいということがわかった。
トーマス・ブラス 野島久雄・藍澤美紀(訳) (2008). 服従実験とは何だったのか---スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産 誠信書房 pp.189-190.
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