国連人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は,「潰された人々」と題する報告書のなかで,カースト制度とは次のようなものだと総括している。「世界でもっとも長く続いている身分制度……与えられた職業の清浄さを基準に定められた,複雑な社会集団の序列である」。実際,この制度は非常に複雑で,地域によっても,また宗教的な解釈の仕方によっても,微妙なちがいがある。けれども,インドのすべての地域に共通することが1つだけある。それは,カーストの下に,さらにアウトカーストという身分があって,彼らは汚れた,触れてはいけない者たちとされていることだ。そして,触れてはいけない理由は,彼らが人間の糞便を手で触っているからである。
昔は,彼らは「バンギー」と呼ばれていた。サンスクリット語で「潰された」,ヒンドゥー語で「ゴミ」を意味する。現代では,彼らの公式な呼び名は「指定カースト」であるが,差別撤廃の運動家たちは,「ダリット」という呼び名を好んで使う。やはり「服従させられた」とか「虐げられた」という意味だが,「バンギー」のような否定的な意味合いはない。
いまのインド人の多くは,カーストが指定する職業にこだわることは,もはやない。異なるカースト同士の結婚が増えて,より流動的に,より自由になったが,アウトカーストは,たいていの場合,やはりアウトカーストだ。それというのも,彼らはいまだに動物の皮をなめし,死人を火葬し,人の糞便をすくいとっているからである。
ローズ・ジョージ 大沢章子(訳) (2009). トイレの話をしよう:世界65億人が抱える大問題 日本放送出版協会 pp.137-138
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