マニュアル・スカベンジャーが階級を越えて活躍するのを阻む目に見えない壁は,文化的偏見だが,それ以外に経済的な問題もある。アメリカの雑誌『Fane』に,はじめてスカベンジャーのことを書いたとき,わたしの原稿は編集者の疑問つきで戻ってきた。スカベンジャーが,なぜ,その仕事を自分たちがしなければならないと考えているのか,そしてだれが彼女たちを雇っているのかが,わからないというのだ。編集者はこんな書き込みをしていた。「彼女たちのボスはだれ?教育を受けていない難民?(高い教育を受けている人にとっては,こうした状況は我慢ならないものであるはずだから)」
そうだったら,どんなにいいだろう。実際には,スカベンジャーたちをいまも雇い続けているのは,地方の公共機関やインド鉄道だ。彼らに汚物の清掃をさせているのである。インド鉄道は昨年,線路を清掃するスカベンジャーたちの雇用を廃止する期日を明らかにしなかった。現行の「開放式」トイレにかわって,完全に密閉された水洗トイレが列車内に設置されるまでは,スカベンジャーはもっとも安価な線路清掃法だからである。ニザマバードの上級裁判所は,最高裁判決の命を受けて,乾式掘り込み便所——スカベンジャーが掃除していた——を取り壊すだけにとどまった。
ローズ・ジョージ 大沢章子(訳) (2009). トイレの話をしよう:世界65億人が抱える大問題 日本放送出版協会 pp.145-146
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