ときには下水処理水が飲料水より清潔なこともある。ある下水処理場の職員はこう言った。「ばかげてますよ。大金をかけて高水準の下水処理水をつくっておきながら,それを川に流してまた汚してしまうとは」と。もう1つのばかげたことは,飲料水に正亜リン酸を混ぜ込み——老朽化した水道管から滲出する鉛を中和させるためだ——その結果,下水処理水からリンを取り除くはめになっていることである。
下水処理水の再利用は,カムフラージュすればうまくいきやすい。このテクニックは,軍国主義にふさわしいようで,イスラエルで使われた。ロンドンで開かれた下水会議で,イスラエルのメルコット下水処理会社の美しい女性が,プレゼンテーションを行った。グレーのスーツで埋まった会場でひときわ目立つ彼女は,メルコット社は下水処理水を帯水層に通し,帯水層から取り出して,飲料水として使用していると説明した。「そこが,人々の心理に訴える重要なポイントです」と彼女はうっとりと見守る観衆に向かって言った。「その水が帯水層から出たものだと人々に知らせることが大切なのです」。
これは,人々の糞便への嫌悪感をやわらげるうまい方法である。けれども,そもそも汚水を出さない,そして水をむだにしないことができるなら,それにこしたことはない。
ローズ・ジョージ 大沢章子(訳) (2009). トイレの話をしよう:世界65億人が抱える大問題 日本放送出版協会 pp.345-346
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