ラルフ・ウォルドー・エマーソンが「愚かな頑固さは狭量な心のあらわれ」と言っているが,頑固さという一貫性を求めるのは人の本性の特徴といえるものである。矛盾する情報にであったとき,私たちは一貫性と統一感を懸命に探し求めるが,それは私たちの回りの複雑な世界を簡単なものにし,また予測可能なものにしたいからである。たとえば社会心理学者は「美しいものは善きものである」というものごとを単純化する原則がいろいろな場面で機能していることを示してきた。これは,外面と内面は一致しているということを私たちが信じているということなのである。別の言い方をすれば,重大な結果が些細でたいしたことのない原因によってもたらされるというような原因と結果の不釣り合いは私たちの心に不快に響くのだ。ケネディの暗殺の背景には陰謀があるということが広く信じられているが,これもそうした心の働きのせいであると考える社会心理学者もいる。ミルグラムのシラノイドの研究は,きわめて創意に満ちた手法を使うことによって,人の行動においてその単純化し統合化する傾向がどれほど強力であるかを示したのである。
トーマス・ブラス 野島久雄・藍澤美紀(訳) (2008). 服従実験とは何だったのか---スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産 誠信書房 p.309.
PR