しかし,CBA(引用者注:Cosmic Brotherhood Association。UFO団体)が展開した宇宙考古学を,娯楽物語の設定に見事に取り込んでしまったのは,なによりも『天空の城ラピュタ』(宮崎駿監督,1986年)が一頭地を抜いている。伝説のラピュタを撮影した写真と,特務機関がその証拠であるロボットをこっそり回収していたということ自体,UFOの目撃とロズウェル事件をそのまま反復している。超古代に栄えた文明,金星人よろしく地上におりたラピュタの王族,そしてその叡智を伝える楔形文字風の古代文字と呪文,どれも前述した神智学周辺ではおなじみの主題である。ラピュタの内奥にある「玉座の間」の場面では,マヤ文明か縄文を思わせる紋様の巨像が鎮座しているが,その姿や途中の回廊で朽ち果てたロボットも,どこかしらタッシリ・ナジェールの「火星人」や遮光器土偶を連想させもする。きわめつきは「ラピュタの書」だろう。核兵器を連想させる威力をみせつけてムスカは,これこそが「旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火だよ,ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているがね」と,宇宙考古学そのままのセリフを吐くのである。宮崎駿自身が語るところによれば,以前,インドとの合作で叙事詩の『ラーマヤーナ』を映像化する話があり,その際に,プロデューサーが「地球は1回核戦争にあっている」という内容の本を置いていったという。結局,『ラーマヤーナ』の話はなくなったものの,その本で「古代に空を飛んだり,核兵器を操ったりしたというようなことが,インドでは信じられている」ということを知り,それが古代の機械文明というラピュタの主題につながったように思うと述べている。時期と内容からいって,その本は橋川卓也ほか『人類は核戦争で一度滅んだ——古代から現代へ発せられた恐るべき警告!!』(Mu super mystery books,学習研究社,1982年)あたりかと思うが,こうした着想探しは,あまり意味のあることではないだろう。デニケン以降,こうした主張の類書はそれこそ無数にあるからである。
橋本順光 (2009). デニケン・ブームと遮光器土偶=宇宙人説 吉田司雄(編著) オカルトの惑星—1980年代,もう一つの世界地図— 青弓社 pp.85-110
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