こうした記事を断片的に眺めていると,単に風変わりな海外の事件を日本の編集者が配信しただけのように思われるが,実は当時の北アメリカを中心とする欧米諸国では,前記のような「悪魔」に関する虐待事件が,集団ヒステリーとも呼ぶべき現象を巻き起こしていたのである。それは1980年代の欧米で広まった悪魔儀礼虐待(satanic ritual abuse)に対するパニックであり,アメリカを中心として悪魔カルト(satanic cult)が幼児や子供を性的に虐待しているという告発がなされ,法曹界や研究者,メディアを巻き込んだ一大センセーションを巻き起こした一連の事件であった。のちに「現代の魔女狩り」とも評されたこの現象では,告発の多くは法的に事実無根なものであるとされたものの,結果として荒唐無稽な虐待行為を「思い出す」加害者・被害者が続発し,有罪判決を受ける人々も多数にのぼった。
佐藤雅浩 (2009). 児童虐待とオカルト—1980年代女性週刊誌における猟奇的虐待報道について— 吉田司雄(編著) オカルトの惑星—1980年代,もう一つの世界地図— 青弓社 pp.183-207
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