警告をしておこう。学生の中には,科学者や教師が常に正しいと信じきっている人もいる。そうした学生にとっては,専門家とみなされている人たちが,意図的ではなかったにしても,重大な間違いをよくおかしているということを見せられると,腹立たしくなることもあるだろう。自分が読んだり教わったりしたことに疑問をもちはじめると,確かなものが足元から崩れるような感じがするだろう。失うものの代わりに,新しい絶対的な真実をあなたに与えることは,私にはできない。しかし,大切なのは,絶対的真実と思っていたものが,不完全なものであり,あるいは存在さえしていないということを知ることである。実際よりもたくさんのことを知っていると思うよりも,自分の知識の限界を知っているほうがよいだろう。
また,批判的に考えるスキルを身につけると,何も残らなくなるというわけではない。そうではなく,批判的思考スキルによって,研究を積極的に把握するための貴重な能力をたくさん得るのである。そして,積極的な気持ちで研究にアプローチすると,どの研究が合理的に行われているのか,どの研究者が自分たちのバイアスを見極めて,それを正直に認めようとしているのかがわかる位置につけるだろう。
実験場の過誤を見いだしても,驚いてはいけない。結局のところ,この世界にあるものすべてについて,絶対的な確実性をもって知ることはできないのだ。当然,誤りは最小にすべきであるが,できるのはその程度なのだ。研究者にとって重要なのは,可能な限り正確であることだが,実験者のバイアスが混じって,研究方法や結果が本当に意味している以上の結論を出さないように気をつけることである。
P.J.カプラン・J.B.カプラン 森永康子(訳) (2010). 認知や行動に性差はあるのか:科学的研究を批判的に読み解く 北大路書房 pp.28-29
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