また,社会ダーウィン主義に関連するものに,形態的幼児性と呼ばれる考え方がある。ダーウィンによって提唱されたもので,女性は男性よりも小さく,男性よりも形態的(身体的)に乳児や子どもに近いという考えである。ビクトリア時代の理論家の中には,この考えをもとに,女性は男性よりも知的に劣っているが,子どもよりは知的だと考えた者もいる。これは,女性よりも男性のほうが毛深いのだから,ゴリラに似ているはずだと言うようなものだ。もしかしたら妥当なのかもしれないが,信じるべき理由があるだろうか。女性のいわゆる知的劣等性を「説明する」形態的幼児性という考え方が,ここでも,女性から法的,経済的,政治的な力を奪い取るのを正当化するために利用されたのだ。形態的幼児性を女性にあてはめた社会進化論は,黒人に対する白人の権力を維持するために同じ考えを利用した。彼らが言うには,白人に比べ,黒人は身体的に類人猿に似ているので,それゆえ白人よりも知的に劣っているのだと。黒人女性は,この性差別的で人種差別的な理論によって,さらにおとしめられたのである。
P.J.カプラン・J.B.カプラン 森永康子(訳) (2010). 認知や行動に性差はあるのか:科学的研究を批判的に読み解く 北大路書房 pp.42
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