データでは裏づけられていないにもかかわらず,なぜそんなにも多くの人々が,女性が言語的に優れると信じているのかは,推測するしかない。とはいえ,2つの可能性が思い浮かぶ。1つは,女性は「しゃべりすぎる」とよく批判さればかにされてきたので,重要な言語御能力での優位性を示すデータを曲解して,女性がけっしておしゃべりをやめない,ぐちぐち言い続ける,あるいは男性や子どもを思い通りに動かすような言葉を使い続けることの証拠だと簡単に思ってしまうのだ。しかしながら,実際のところ,デイル・スペンダーとグロリア・ステイムが指摘しているように,女性がたくさん話すように見えるのは,1つには,女性が伝統的に沈黙を守るよう期待されてきたからだ。はっきり主張する女性や本心を語る女性は,今でも,それが男性の場合よりも,強引でふさわしくないふるまいだとみなされる恐れがある。しかしながら,最近の研究では,男女のおしゃべりの量に有意な性差が見いだされていないことから,存在するとされる発話の差異は,現実というよりもむしろ,社会や大衆文化のバイアスを反映した主観的な印象なのかもしれない。また,男性のほうが言語障害が多いという(証明されていない)信念によって,女性は言語的に優れているという信念が増長しているという可能性もある。
P.J.カプラン・J.B.カプラン 森永康子(訳) (2010). 認知や行動に性差はあるのか:科学的研究を批判的に読み解く 北大路書房 pp.128-129
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