脳のどの部分がどの機能を補助しているのかを把握することが難しいのは,脳の驚くべき複雑さのせいである。脳は並はずれて複雑であり,1000億個の細胞からなり,それぞれの細胞が複数(しばしば未知数)の細胞とつながっており,それぞれの細胞が未知の数の細胞を活性化したり抑制したりしている可能性をもち,それぞれの細胞が他のニューロンの影響を受け,その人が何を食べるか,何をするか,何を感じるか,そしてその人が細胞に何をしたかによって影響を受けるのである(実際のところ,ある理論家は,脳梁の中で興奮性ニューロンが増加すると数学能力が高まると述べているが,そのニューロンに抑制機能が数学能力を高めると述べる者もいる)。さらに,前述したように,脳機能は特定の場所だけから生じるのではなく,同時に活動する多くの神経連鎖の複雑度や強度も関与しているのである。(たとえば市の機能は,1人の仕事だけではなく,いろいろな人々が関わっている多くの仕事から成り立っていることを考えてほしい——交通管理センター,警察署,消防署,救急車が協力している姿は,それぞれの部署がどのくらい効率的かということよりも,市がどのくらいうまく機能しているかについて多くのことを語ってくれる)。反応は非線形であることが多く,それゆえ追跡するには手腕が問われることになり,そして,反応の性質は予測しがたい。
P.J.カプラン・J.B.カプラン 森永康子(訳) (2010). 認知や行動に性差はあるのか:科学的研究を批判的に読み解く 北大路書房 pp.134-135
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