まず,重要なのは,性ホルモンに関する基本的で一般的な2つの原理を理解することだろう。第1の原理として,あるホルモンを「女性」,別のホルモンを「男性」と名づけることで,誤った二分類が生まれてしまった。多くの人は女性だけに女性ホルモン——エストロゲンとプロゲステロン——があり,男性だけに男性ホルモン——テストステロンなどのアンドロゲン——があると仮定している。これは誤った仮定で,男女は完全に異なるホルモンをもち,それゆえに身体的にも行動的にもその特徴が完全に違うという信念を増長させている。実際には,男性の身体にも女性の身体にも,「男性」ホルモンと「女性」ホルモンが両方とも存在するのである。実際,たとえば,男女とも身体にテストステロンがあるが,成人女性は成人男性に比べると,血液中のテストステロンが少なく,そして,血流からのホルモンによって影響を受ける受容体が男女で異なっているのである。そして,思春期に,男性ではテストステロンの効果が目につく——性器の発達,体毛の増加,声変わりなど——が,テストステロンはまた,女性の陰毛の発毛やクリトリスの成長を刺激してもいるのである。
P.J.カプラン・J.B.カプラン 森永康子(訳) (2010). 認知や行動に性差はあるのか:科学的研究を批判的に読み解く 北大路書房 pp.144-145
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