大きな問題は,論理的に考えてみると,母親のみを責めることがこれほど広がっていることの説明がうまくつかないということだ。母親の育児の主な担い手であるような家族でさえ,子どもたちは他の人々や事物——父親,親戚,家族ぐるみの友人,教師,仲間,メディア,書籍,子ども自身の生得的な特徴(乳児は生まれた時から気質がそれぞれ異なることが知られている)——の影響にさらされている。専門雑誌に掲載されたメンタルヘルスの専門家の125本の論文を対象にした研究によると,母親は,おねしょから統合失調症までの72種類の子どもの問題について責められていた。その研究は,この125本の論文を,母親と父親のそれぞれを記述するために使われている単語の数,子どもの問題の原因を母親のみに直接に帰属するもの,過去の文献の母親非難を疑うことなく受け入れているもの,その過去の研究を子どもの問題に関する説明の中に組み入れているもの,といった基準をもとに63種類の母親非難に分類している。63種類の非難のいずれにおいても,父親やその他の人は母親ほど責められておらず,母親非難の頻度や激しさは圧倒的なものだった。
P.J.カプラン・J.B.カプラン 森永康子(訳) (2010). 認知や行動に性差はあるのか:科学的研究を批判的に読み解く 北大路書房 pp.242-243
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