マリア・P・パヴロウは,セルフ・ネグレクトを次のように定義しています。
(1)個人の,あるいは環境の衛生を継続的に怠る
(2)QOL(Quality of Life = 生活の質)を高めるために当然必要とされるいくつか,あるいはすべてのサービスを繰り返し拒否する
(3)明らかに危険な行為により,自身が危険にさらされる
まず,定義(1)についてですが,ここでは個人の衛生,あるいは環境の衛生を「継続的に」怠り,極めて不衛生に陥ることがポイントです。
例えば環境の衛生を考えてみましょう。仕事が落ち着くまで部屋の片付けを後回しにしていて,仕事が終わったら一気に部屋の片付けを始める人はいるでしょう。
また,年末に大掃除をするのが一般的ですが,徹底的に掃除をする人もいれば,いつもより少しだけ念入りに掃除する人もいると思います。つまり,多くの人は,掃除や片付けを時々はサボっても,継続的に怠ることはしません。
個人の衛生を考えてみましょう。風をひいてしばらくお風呂に入らないことはあっても,風邪が治ればお風呂に入るでしょう。またお風呂に入らない日が数日続けば,タオルで体を拭いたり,足だけでも洗ったりということを代わりにするのが通常です。
次に定義(2)ですが,ここでは「当然必要とされる」サービスを,「繰り返し」拒否することがポイントです。
介護が必要な状態になれば,何らかのサービスを受けて少しでも助けてもらおうとするのは当然のことです。もちろんすべてのサービスを受けるには費用もかかりますから,介護保険で利用できるサービスをケアマネジャーから勧められ,自分の意志でいくつかのサービスを選択し決定していくことになります。
ただ,サービスを勧められても,なかなか即答できる人はいないはずです。ケアマネジャーの説明に納得できなかったり,ヘルパーに限らず他者を家の中に入れることに抵抗を感じたりするため,サービス利用をすぐに決断できる人の方がむしろ少ないかもしれません。
それでも,ほとんどの人は,何度か説明を受ければ,必要なサービスであれば納得して受け入れるでしょう。セルフ・ネグレクトは,繰り返しの説明や説得にもかかわらず,自分に必要だと勧めてくれるサービスを断り続ける場合です。
定義(3)は,「危険な行為」により「自身が危険にさらされる」ことがポイントです。「危険な行為」は「傷の手当てをしない」などの,必要な病気の治療やけがの処置を「怠る」つまり「放置する」ことが含まれます。また病気治療のために必要な食事制限を守らない,薬を飲まないことが,「危険な行為」にあたります。通常の生活をしていれば生活に危険は生じないのですが,自分自身の危険な行為や不注意により,自分自身を危険にさらすような状況が起きてしまうのです。
岸恵美子 (2012). ルポ ゴミ屋敷に棲む人々:孤立死を呼ぶ「セルフ・ネグレクト」の実態 幻冬舎 pp.23-25
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