よく「漫才というのはどうやれば上手くなるのですか?」と聞かれることがある。それを聞いてきたやつが芸人だとしたら,その時点でダメだな。
要は客を笑わせればいい。それだけ。そこに至る方法やプロセスはいろいろあるけど,「これが正解」というのはない。芸人の数だけ方法論はあって,それぞれが違って当たり前。
もし,お笑いや漫才にマニュアルがあったとしても,その通りやって笑いが取れる保証はない。むしろダメなんじゃないかな。とにかく結果がすべて。芸人はその結果が欲しくて欲しくてたまらない。中毒みたいなものだから。それに「客を笑わせる」ことに飢えていなければ,結局何も身につかない。
「役者と乞食は一度やったらやめられない」というけれど,芸人にもそういうところがあるんだ。けれどそれは半分正しくて半分間違い。
「芸人になって客を笑わせたことがあるやつは,もう辞めることができない」——これが正解。その代わり客を笑わせることができなかった芸人は,その場で首吊って死のうかと思うぐらい落ち込むけどね。
ビートたけし (2012). 間抜けの構造 新潮社 pp.54-55
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