おいらのときは,漫才のスピードをそれまでの倍にした。B&Bとツービートでジャンジャンジャンジャン速くした。それまでに漫才をしていた人たちの倍は速くしゃべって,そこに何倍もギャグを詰め込んだ。
今の漫才もどんどんスピードが速くなっているけれど,おいらのときと決定的に違うのは,コンビ2人ともスピードが速いということかな。
おいらと洋七がバリバリやってたときは,速いのはおいらたちだけで,相方は合間に手拍子入れるぐらいの感覚。なんてったって,きよしさんと洋八は,「紳助竜介」の竜介を加えて「うなずきトリオ」だから。
おいらがバーっとしゃべって,相方が「ああ,そうです,そうです」とか「なるほど。それで」と言うだけだから,漫才を2倍速くしたといっても,2人して速いわけではなくて,片方が速いだけ。
それが今の漫才は,ボケとツッコミの両方が速い。コンビが同じ速さでもって掛け合いをしている。そういう意味では,おいらのときよりも漫才自体が速くなっていると言えるし,それができるということは,掛け合いの技術が上がっているということでもあるんだろうね。
なんでそうなったか。
思うに,ツッコミが笑いを取ろうとし始めたからじゃないかな。それまでは,ボケが笑いを取って,ツッコミはそのリアクションだったりフォローだったりしたわけだろう。それがどんどん変化して,ボケとツッコミの両方で笑いを取ろうとし始めた。そのあたりが,今の漫才の最大の特徴と言える。
ビートたけし (2012). 間抜けの構造 新潮社 pp.58-59
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