美術史上,ピカソほど,生前に経済的な成功に恵まれた画家,つまり「儲かった」画家はいません。
ピカソ自身,「私がツバを吐けば,額縁に入れられ偉大な芸術として売りに出されるだろう」と豪語しているほどです。実際に数十人分のディナーくらいなら,紙のテーブルクロスにサインすれば払えたといいますから,その署名はただの紙を一種の「紙幣」に変える力を持っていたことになります。愛人に手切れ金のように与えた家なども,一晩で描いた静物画と交換に手に入れたといいます。
作品の値段の高さに加えて,ピカソは制作した作品が多いことでも知られています。彼が生涯に制作した作品の点数は油絵だけで1万3千点,版画や素描や陶芸など,油絵以外の作品は13万点を越えています。このうち版画は,1点の作品が数十枚数百枚の単位で刷られますので,その作品の総数はまさに想像を絶するものがあります。それらのすべてにピカソならではの高額の値段がついているわけですから,彼が生み出した作品の評価額の総計は,それこそ天文学的な数値に達することになります。
西岡文彦 (2012). ピカソは本当に偉いのか? 新潮社 pp.15-16
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