確かにカメラは純粋科学の一定条件を満たせば,時には「冷酷非情」になることもできる。しかし,私たちが一般に使うカメラでは,それはなかなか難しいのである。別の視点から写真の独自性を語ると,こうなる。
第1に,映像は広角や望遠レンズによってイメージを強調することができるのだ。レンズによる変形や歪曲は撮影者の意図によって自由自在に変えられる。ワイドなレンズは,ただ単に広い範囲を写すだけでなく,遠近感を誇張することもできる。望遠レンズは,ただ単に遠くのものを大きく写すだけでなく,距離感を圧縮したり,不必要な部分をカットするために使うことも可能なのだ。
第2に,“時間の固定”である。シャッター・チャンスという時間を切り取ることができるのは,写真の大きな魅力のひとつである。そこには,どの瞬間をフィルムに記録しようかという撮影者の意図と選択が働く。
第3に,アングルや撮影意図による違いである。現実の世界は3次元の立体の世界である。しかし,カメラは2次元の世界にその主体を記録するのである。そして,人間の目は2つあるのだが,カメラの眼(レンズ)はひとつしかない。こうした物理的な違いから,事実がよく見えたり,ものの背後でわからなかったりすることがあるのだ。
映像は,これらの3要素が複雑にからみあって再現される。だから,裏を返せば撮影者がこれらの3要素をうまく操れば,意のままのイメージを人に伝えられるのだ。映像=ビジュアル・イメージの威力とワナはここにあるのだ。
新藤健一 (1994). 新版 写真のワナ 情報センター出版局 pp.38-39.
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