1980年に,環境保護主義者であるポール・エーリックと彼の仲間,そして経済学者のジュリアン・サイモンとの間で取り交わされた有名な賭けがある。エーリックは1968年に出版されベストセラーとなった『人口爆発』の著者だ。彼はこの書籍で,人工の過剰な増加と自然資源の枯渇によって,1970年代にはすべての大陸で食糧不足の問題が表面化すると記している。サイモンはエーリックとその友人に対して,ただ言うだけでなく,実際に10年後に消滅する自然資源を5つあげるよう迫った。この不足は価格に反映する。もしその5つの原料の価格が10年の間に上昇したのであれば,サイモンが差額をエーリックとその仲間に支払い,それに対して,もし価格が下落した場合,エーリックがサイモンに支払うという賭けだ。
エーリックと同僚は5つの金属を選んだ。クロミウム,銅,ニッケル,スズ,そしてタングステン。そして期間は1980年から1990年に設定された。賭けが行われた時点で「他の欲張り深い人間が割り込んでくる前に,サイモンの思いがけない申し出を受け入れることにした」,「金の魅力には抗えないから」とした。
結果やいかに。
僕もその10年は実際に生きていたからよく覚えている。1980年下ら1990年にかけては,『ホーム・アローン』が公開され,Windows 3.0が発表され,世界初の「www(ワールド・ワイド・ウェブ)」ページがCERN(欧州原子核研究機構)もよっって作成され,そしてクロミウム,銅,ニッケル,スズ,タングステンの実質的価値がすべてさがった(実質的価格とは,インフレが考慮に入れられた後の値段ということ)。打ちひしがれたエーリックとその仲間たちは,なんとかその負けを「無かったこと」にするために,恥を忍んでいろんな手を尽くしたけれど,結局,それらの鉱物の下落した価格分(578ドル)の小切手をわたすことを余儀なくされた。
ジュリアン・サイモンが輝かしい勝利とちょっとしたお小遣いを手にすることができたのは,多くの人々が知恵と情熱を注いで,産業技術を発展させた結果だったと言えるかもしれない。
トーマス・トゥエイツ 村井理子(訳) (2012). ゼロからトースターを作ってみた 飛鳥新社 pp.131-132
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