人間の感情にはそれほど大きな謎はない。知っておかなければならないのは,次の単純な方程式だ。
感情=興奮+感情的思考
どんな感情が生じるときでも興奮するのは同じで(違うのは強さだけ),それに適切な思考を合わせるのが脳の役目である。ところが感情がかわると,脳は急いで靴下を組み合わせようとする休憩直前の洗濯係の助手と変わらなくなってしまう。鮮やかな青色で犬のキャラクターがついている靴なら,何の問題もなくすぐ組み合わせることができる(私の脳は,前頭前野の抑制がきかない危険な患者とともに小さな部屋に閉じ込められていることと,手のひらに汗をかくことを,苦もなく結びつけた)。しかし長さも形も色もほとんど変わらない仕事用の黒い靴下を何足も組み合わせるとなると,話はややこしくなる。おまけに脳は,それほど慎重ではないのだ。正しく組み合わせるどころか,よく似た黒い靴下を適当に合わせるくらいは平気でやる。その結果,興奮した原因を,実際とは違うものと思い込んでしまうことがある。
コーデリア・ファイン 渡会圭子(訳) (2007). 脳は意外とおバカである 草思社 p.43
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