チェスとちがい,ユーモア感覚を測る方法はないが,20世紀の心理学研究で1つ明らかになったのは,人のほぼすべての特徴が,科学的な研究の対象になりえるほど,計量が可能ということだ。といっても,人を笑わせるという,いわく言いがたい特徴が簡単に計量できる,というわけではない。もし簡単であれば,ユーモアのセンスがない人も,コンピュータでうまい冗談を作り上げることも可能だろう。私たちが言いたいのは,おかしいものとつまらないものに対する人びとの判断に,驚くほどばらつきが少ないということだ。同じことが,一見計量不可能に思える数多くの特徴にも言える。美は見る者の目に宿ると言われる。だが,じつはちがう——複数の顔写真で魅力を判断してもらうと,それぞれ趣味も好みも異なる人たちの評価が,みごとに重なり合う。誰もが俳優やモデルになれるわけではないのは,そのためだ。
クリストファー・チャブリス&ダニエル・シモンズ 木村博江(訳) (2011). 錯覚の科学 文藝春秋 pp.116
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