自己啓発書では,自信をもつことが大切だと力説されている。たしかに。自分の考えを自信をもって表明できれば,多くの人を説得して成功を手に入れられそうだ(少なくとも当座のあいだは)。自分の診断に疑問を抱かせず,患者を納得させることを目標にする人は,もちろん白衣を着たほうがいいだろう。装った自信にはご利益がありそうだ(相手を納得させられるほど自信の装いがうまい人は,もともと自信の強い人だとも言えるが)。だが,誰もが自己啓発書の勧めどおりに自信をもって行動すると,すでに信号として限りのある自信の価値がさらに損なわれ,自信の錯覚がより危険なものになる。極端な場合,人は正しい判断にまったくつながらない手がかりを,頼りにするようになる。自信を強めることは当人には役に立つかもしれないが,周囲の人たちを犠牲にしかねない。
チャブリス&ダニエル・シモンズ 木村博江(訳) (2011). 錯覚の科学 文藝春秋 pp.139-140
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