カード合わせのゲームも,現実世界のデートや恋人探しも,拒絶という形で直接的な(そして痛みもともなう)フィードバックが即座にあたえられる。残念ながら私たちは,人生の中で自分が下した決断について,それが正しかったのかどうか,正確なフィードバックを日ごと,年ごとに手に入れることはできない。翌朝の天気を見れば当たりはずれがわかる,気象予報官のようにはいかないのだ。そこに気象学と,医学のような分野との大きなちがいがある。診断や外科処置の正しさに関する情報は,原則として入手可能だ。だが,実際には情報が気象データのように系統だって集められ,蓄えられ,分析されることはめったにない。肺炎を診断し処置をした医者は,処置が有効だったかどうかわかるまで,しばらく待たされる(あるいは永遠にわからずじまいになる)。結果がわかったあとも,処置の効果と自然治癒の要素とを区別するのはむずかしい。
クリストファー・チャブリス&ダニエル・シモンズ 木村博江(訳) (2011). 錯覚の科学 文藝春秋 pp.188-189
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