モーツァルト効果の報道量について分析をおこなったエイドリアン・バンガーターとチップ・ヒースは,1999年に『ネイチャー』誌の記事および論争と時をおなじくして,モーツァルト効果に関する報道量が急激に増えたあと,その後ふたたび低下したと報告している。クリスのメタ分析,スティールとシェレンバーグの研究によって,ようやくモーツァルト効果に実体のないことが理解されたのだろうか。答えはイエスでノーだ。バンガーターとヒースによると,成人がモーツァルトを聞くプラス効果についての報道は少なくなったものの,モーツァルトは乳幼児の知能を高めるという誤った記事が,以前より一般的になったという!たしかに,この風潮はラウシャーの最初の報告がでたわずか1年後からはじまった。念のためもう1度繰り返しておくが,乳幼児に対する効果を調べた研究結果は,いまだかつて発表されたことがないのだ!クリスのメタ分析の結果が公表された10年後の2009年に,私たちは1500人の成人を対象に全国調査をおこなった。結果を見ると,4割の人が「モーツァルトを聞くと頭がよくなる」と考えていた。否定派のほうが数は多い。だが,科学的事実はこの説をまったく支持していない。本来なら大多数の人が否定していいはずだ——「一般的に女性のほうが,男性より背が高い」という言い方が,受け入れられないように。
クリストファー・チャブリス&ダニエル・シモンズ 木村博江(訳) (2011). 錯覚の科学 文藝春秋 pp.247-248
PR