大学を出てから,先輩の上野陽一氏(現在の産能大学の創立者)との関係で,協調会という機関の仕事をしたりしたようだが,まもなく,東京府立松沢病院の心理室において,三宅鉱一博士のもとで精神測定法の研究にたずさわることになる。ここで,記憶の検査,連想の試験,知能検査などの研究にたずさわるのだが,その過程で,クレペリンの連続加算による作業心理の実験的研究に出会うのである。おそらく父は,クレペリンの「作業曲線」の研究に,自分の作業障害の生物学的根拠を見出し,目をひらかれる思いがしたのだと思う。それで,連続加算の時間条件の吟味を行って,「5分の休憩をはさむ25分法」がクレペリンの5因子を看取するのに適当であることを見出し,もっぱらその「25分法」を使って,特に精神分裂病の患者さん達のデータをあつめたのだと思われる。(父は,精神分裂病の患者さんの作業障害と自分のある種の作業障害との間に,近似的な関係を見ていたようである。)そして,その「25分法」のデータを蓄積するうちに,この方法が,人間の精神の健・不健——別の言い方をすれば作業障害の有・無——を予測するのに役立つとの見通しを得て,検査法への発展を展望したのであろう。
内田純平 (1995). 迷留辺荘主人あれやこれや:心理学者内田勇三郎の生き方の流儀 文藝社 pp.97
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