プライミングはどんなスキーマでも可能だ。そしてプライミングされたとき,私たちの行動はそれに合わせて変化する。この現象を早々に実証した画期的な実験の一つでは,ばらばらに並んだ単語を,意味が通る文になるように並べ替えるよう被験者に依頼した。一部の被験者用の単語には,老人のステレオタイプに関する言葉が含まれている。たとえば,皺,へんくつ,毛糸の服,物忘れ,頑固,などだ。他の被験者用の文は,偏りのない単語が使われていた。
この実験の目的は,最初のグループに“老い”というスキーマをプライミングして,行動にどう影響するかを調べることだった。作業が終わって被験者が荷物をまとめ始めると,実験者は礼を言い,ドアのところまで案内して廊下の向こう側にエレベーターがあることを教える。しかし実験はそこで終わりではない。廊下には実験協力者が隠れていて被験者がエレベーターに行くのにどのくらいかかるかこっそり時間を計っているのだ。老人に関係する単語を並べ替えた被験者は,エレベーターまで歩いていくとき,まるで本当に腰の曲がった老人であるかのように,他の被験者より歩くスピードがずっと遅くなっていたのだ。
コーデリア・ファイン 渡会圭子(訳) (2007). 脳は意外とおバカである 草思社 pp.148-149
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