江戸時代の百科事典『和漢三才図会』に,こんにゃくについて,
生の蒟蒻には毒あり,鼠之を食して死に至るを以って知るべし
と記されており,真偽不明ながら,あの目を剥くような刺激からすると,この記述はまんざらウソとも思えない。こんにゃくイモの産地では,むかしからときどき猪による被害が報告されているが,猪が食うのはエグ味のない種イモばかりで,大きく育ったイモは絶対に食べないという。農作物ならなんでも食い散らす猪ですら唯一食わないのがこんにゃくイモであり,これは野生動物にも食物とは認識されていないのである。
そんな,つまりは「毒芋」を食べられるようにしたのが,こんにゃくなのだ。しかも食べられるようにするには,イモを摺りつぶして,しばし寝かせたのち石灰をまぜて固め,ふたたび寝かせて小一時間ほど煮てアク抜きをするといった面倒な手順を踏まなければラナ内。同じイモながら,そのまま煮たり焼いたりすればすぐに食べられるジャガイモやサツマイモとは,まったくちがう。
さらにつけ加えれば,こんにゃくイモは多年生の植物で,寿命が5年ほどあり,イモがこんにゃくにできるほどの大きさに育つまでに3年ばかりを要する。つまり,最初に植えた種イモはその年の秋にはまだ小さく,2年目の秋を迎えてもまだ十分な大きさとはいえず,3年たってようやく1人前のこんにゃくイモとなるしかも,こんにゃくイモは寒さに弱く,冷気にさらしておくと傷んでしまうため,こんにゃく農家では,秋になるとイモを掘り起こして,冬のあいだ室内で保管し,春にまた植えるという作業を繰り返さなければならない。
武内孝夫 (2006). こんにゃくの中の日本史 講談社 pp.10-11
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