かつて,こんにゃくの荒粉は農家の店先で1週間,天日干しにしてつくられていた。昭和40年代の初めごろまで,そうやってつくられるのが当たり前だった。しかし,いま原料業者が導入している大型乾燥機を使うと,生イモを放り込んで2時間でカラカラに乾いた荒粉が大量にできてしまう。荒粉の製造工程は,機械化によって1週間から2時間に短縮されたのだ。
製粉工程のほうはどうか。昔の臼による製粉では,1貫(約4キログラム)の荒粉を搗いて製粉にするのに12時間を要した。ひとつの臼に入れられる量は荒粉一貫で,仮に100キログラムの荒粉を製粉にしようとすると杵25本を12時間稼働させなければならない。これが現在の製粉機だと,100キロの荒粉なら45分で処理してしまう。
つまり,いまの乾燥機と製粉機を使えば,生イモから製粉まで3時間しかかからない。イモを粉にすることくらい,現代のテクノロジーをもってすればたやすいことだ。
だが,この度を超した生産効率の向上は,こんにゃくがそれまでもっていた生産・流通のバランスをすっかりくずしてしまった。
それは,こいうことである。各業者とも乾燥機と製粉機をそなえ,てぐすね引いて秋のイモの収穫を待っている状態のため,秋になるとイモの争奪戦が始まり,イモの相場を吊り上げることになった。ふつう出来秋は作物が豊富で値が下がるものだが,こんにゃくにかぎっては,奇妙な逆転現象がおきるのである。
確保したイモを機械がたちまち粉にしてくれるのはありがたいが,問題はそのあとだ。1週間も向上をフル稼働させれば膨大な製粉をつくりあげてしまい,それはすなわち在庫だから,どんどん売らなくてはならない。そのため,いっせいに売り競争が始まり,値を下げて利幅がなくなっていく。早い話,機械化による増産が安売りを生み,自分たちで自分の首をしめているのである。
武内孝夫 (2006). こんにゃくの中の日本史 講談社 pp.183-185
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