結合性双生児をかたどった最古のものは,臀部で結合した太めの中年姉妹の白い大理石像で,新石器時代の小アジアの神殿で発掘された。それから3000年後に,オーストラリア先住民アボリジニの手によって,現在のシドニー郊外近くの岩に,双頭の結合性双生児(頭が2つに胴体が1つ)を記念してその姿が刻まれた。さらにその2000年後(紀元前700年)には,ギリシャ時代の幾何学文様の陶器に,ギリシャ神話に登場するモリオネが産んだ息子たちの姿が描かれている。エウリュトスとクテアトスという名の兄弟は,ひとりはモリオネと海神ポセイドンの息子,もうひとりはモリオネとアクトル王の息子と言われている。父親どうしは仲が悪かったにもかかわらず,兄弟は1つの胴体と4本の腕を持ち,それぞれ槍を振り回した。現代のイギリスのケント州の教区では,復活祭の翌日に体の側部がぴったりくっついた2人の女性をかたどったパンが,貧しい人々に配られる。ノルマン人の征服時代からの伝統で,かつてその地で暮らしていた結合性双生児の姉妹が,協会に財産を遺贈したことを記念したものらしい。
アルマン・マリー・ルロワ 上野直人(監修) 築地誠子(訳) (2006). ヒトの変異:人体の遺伝的多様性について みすず書房 pp.24
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