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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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プロテウス症候群

 こうしたがんは死に至ることが多い。だがPTEN遺伝子変異を1つ受け継ぐということは,こうしたがんの発症よりもはるかにひどい結果を招きうる。もし2つ目の遺伝子の変異が,幼児期の終わりではなく胚の初期の細胞で起きると,子どもの体のかなりの部分,ひょっとしたら半分までも, PTENタンパク質をまったく持たないことになる。その結果,このタンパク質を持たない部分は1つの大きく広がった腫瘍になる。
 この病気は「プロテウス症候群」として知られる。ギリシャの神々の中で頻繁に姿を変える神の名前だ。「海神プロテウスのように/さまざまなものにくり返し変身できる能力を持つ者がいる/ときには若者に,ときにはライオンに/ときには触れるのをためらわれるヘビに/ときには突進するイノシシに,さもなくば鋭い角の牛に」とオウィディウスは書いたが,ほかの作品ではこの海神を「あいまいなもの」と呼んでいる。プロテウス症候群はきわめてまれで,これまで世界じゅうでたったの60人しか知られていない。この症候群の子どもは誕生時には正常に見えるが,大きくなるにつれて顔や手足がだんだんと歪んでくる。骨や柔らかい結合組織が好き勝手に大きくなり,それが体じゅうに広がるが,体の片側だけということが多い。皮膚一面にひだ状の凹凸ができたり,とくに足の裏がざらざらしたりし,たいていは5歳になる前に死んでしまう。2つの大脳半球が不均衡に発達して神経発作を起こしたり,肋骨が大きくなりすぎて呼吸困難になったり,たくさんの奇妙な腫瘍の1つが悪性に変わったりするからだ。1890年に28歳で亡くなった,いわゆる「エレファントマン」ことジョゼフ・メリックは,プロテウス症候群だったといまでは考えられている。もしそうならば,彼の一生は短かったが,28歳まで生きられたのは幸運だと言える。

アルマン・マリー・ルロワ 上野直人(監修) 築地誠子(訳) (2006). ヒトの変異:人体の遺伝的多様性について みすず書房 pp.178-179
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