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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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「だから何なのだ」

 長身崇拝はジレンマを生む。身長をコントロールする分子のメカニズムがさらにわかってくれば,私たちが,いやむしろ子どもたちが望む身長をミリ単位まで操作することができるようになるだろう。そうなると,いったいどれくらいの身長が適正なのだろうか?身長に関して正常と異常との境界をはっきり定めることはできない。それは臨床的な可能性,もしくは便宜上決められたあいまいな境界なのだ。もちろん,背が低いことが症候になる病気は遺伝的なものを含めたくさんある。だが,もともとは遺伝的なものであっても,小柄なことは必ずしも——むしろほとんどの場合——病気ではないのだ。現在アメリカではおよそ3万人の子どもが,背が伸びるようにとサプリメント(遺伝子組み換え型成長ホルモン)を与えられている。こうした子どものほとんどは成長ホルモンが不足しているので,適切な治療法と言える。だがこのうち3分の1は,「突発性低身長」と呼ばれるものだ。栄養不足とか,虐待とか,臨床的に同定できる病気とかが原因で背が低いわけではなく,単に背が低いだけのことだ。だが両親が背が高くなってほしいと望むあまり,成長ホルモンのサプリメントを服用している。
 これは正しいことなのだろうか?大型犬や小型マウスからわかるように,成長ホルモンは体に影響を与える。だがどんなふうに与えるのかはまだ完全に解明されていない。ならば,十分な医学的理由がないときは子どもの身長に手を加えるべきではない,と言っても過激でも時代錯誤でもないはずだ。しかも成長ホルモンだけが問題なわけでもない。私たちのサイズを決める分子装置について知れば知るほど,それを利用したいという誘惑にますます駆られるだろう。正常と異常との境界は曖昧なだけでなく,可変で,つねに変動しており,医療技術の進歩によってもつねに動いている。ある意味,当然のことだ。生物学上の思いがけない出来事が,病いとして理系できて治癒できるものに変わることは,医学の歴史そのものだからだ。だが身長についても同じことが言えるのだろうか?背が高いことは,あらゆる種類の望ましいことと相関があり,背の低い人で米大統領になったのは数えるばかりだが,だから何なのだ,と言いたい。背の低い子どもに関する研究は,私たちが直感的に知っているとおりの結果を示したからだ。人生において幸福や成功を手に入れられるかどうかには,本人の知性や健康,両親から受けるきめ細かい心配りのほうがはるかに重要な役割をはたしており,身長は最もとるに足りない要因の1つだ。これこそが,子どもの成長を誇らしげに,あるいは不安げに柱に刻むときに,私たちが肝に銘じておかなければならないことだ。

アルマン・マリー・ルロワ 上野直人(監修) 築地誠子(訳) (2006). ヒトの変異:人体の遺伝的多様性について みすず書房 pp.185-186
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