1994年に目を見張るようなことが起きた。スゥエーデンの8歳の少女の死亡者数が,ゼロだったのだ。1人もインフルエンザで死なず,1人もバスに轢かれて死ななかったのだ。その年の初めに11万2521人いた8歳の少女は,その年の終わりにも11万2521人いたのだ。
もちろん,これは統計上の偶然にすぎない。その年には8歳の少年が何名か死亡したし,7歳と9歳の少女の何名か死亡した。翌年には8歳の少年も少女も死亡した。だが1994年にスゥエーデンの8歳の少女が1人も死亡しなかったということは,子どもたちを死から守るという,産業文明の進歩による最大の偉業が達成されたことを象徴的に表していると言えるのかもしれない。
先進国における子どもの死亡率は,特に事故や犯罪による死亡を除けば,限りなくゼロに近づいた。少なくとも250年かけて達成されたこの偉業によって,平均寿命はゆっくりと上昇していった。1750年以前の平均寿命はたったの20年だったが,現在では経済大国の平均寿命はおよそ75年だ。平均寿命の上昇は,まず感染症の犠牲になる子どもたちを病気から救ったことによって成し遂げられた。しかしおもしろいことに,こうした国々では子どもを死から守るという目標は完全に達せられたにもかかわらず,平均寿命は伸び続けている。
アルマン・マリー・ルロワ 上野直人(監修) 築地誠子(訳) (2006). ヒトの変異:人体の遺伝的多様性について みすず書房 pp.290
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